ブログBLOG
甲状腺機能低下と妊娠について
2025年4月16日:甲状腺
甲状腺ホルモンは妊娠成立や維持、胎児の成長においても大変重要なホルモンとなっております。そのため、軽度の甲状腺機能低下でも不妊や流産、胎児の知能低下に影響するとの報告があります。
<妊娠前、妊娠中の甲状腺機能を評価するには?>
基本的には採血で測定するTSH(甲状腺刺激ホルモン)の数値が甲状腺機能を一番正確に鋭敏に反映するため、TSHの数値をみて評価します。TSHは、甲状腺機能が低下に傾くと上昇するホルモンとなっており、目標値よりTSHが高い場合は「甲状腺ホルモンが不足している」ということになります。
目標値は橋本病の有無(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体が出ているか)や不妊治療を行うかどうか、妊娠前や妊娠後の時期によっても変わります。橋本病があると普段の甲状腺機能が正常でも、変動や低下しやすいので妊娠前後で甲状腺機能を確認する必要があります。
<治療について>
TSHが目標値を超えている場合は、甲状腺ホルモンを補充する薬(チラーヂンS:レボチロキシン)の内服にて調整を行います。目標値で維持できるまでは1ヶ月毎程度の受診となり、安定すれば2~3ヶ月毎の受診となります。
<妊娠前のTSHの目標値>
実は日本ではガイドラインで定められた明確な数値目標はなく、いまだに議論の分かれる部分がありますが、当院では以下の基準値を一般的な目安としております。
橋本病ではない場合 | 橋本病などの場合 | |
自然妊娠 | TSH<4-5 (μIU/ml) ※検査会社によって異なる | TSH<2.5 |
不妊治療 | TSH<2.5 | TSH<2.5 |
ただし、基本的には過剰にならなければTSH<2.5を目指すメリットの方が大きく、内服薬も副作用がほとんどなく、価格も保険適応で1錠約3円ととても経済的ですので、皆様にTSH<2.5を勧めます。
<妊娠後のTSHの目標値>
妊娠後は甲状腺ホルモンの必要量が30~50%増えると言われております。妊娠前から治療や経過観察を行っている方は、妊娠がわかったら早めに連絡や再診をお願いいたします。
妊娠後は妊娠前の治療などに関わらず、妊娠初期(13週まで)はTSH <2.5μIU/ml、妊娠中期(14週~)TSH<3.0μIU/mlを目標とします。基本的に妊娠20週までは1ヶ月毎、その後は妊娠26-30週目に甲状腺ホルモンが目標値に入っているかを確認します。
<出産後>
TSH 2.5-5 μIU/mlで内服を開始した方は出産後内服を中止、元々甲状腺機能低下症で治療していた方は妊娠前の内服量に戻すことが一般的です。産後は甲状腺機能の変動がみられることも多いため、産後3ヶ月前後で甲状腺ホルモンを採血で確認させていただきます。
<食事、日常生活での注意>
ヨウ素(ヨード)を多く含む海藻類やイソジンうがいで甲状腺機能が低下する可能性がありますので、過剰摂取に注意が必要です。ヨウ素1.5mg(1500μg)/日以上の連日摂取で機能低下症を発症したとの報告があり、特に昆布(昆布だし)、ひじき、もずくはなるべく控えた方が無難ですが、その他の食材の常識的な量であれば神経質になりすぎる必要はないと思われます。
↓上記の内容をpdfで1枚にまとめたものを下記からダウンロードもできます。
バセドウ病について
2023年10月24日:甲状腺
<バセドウ病とはどのような病気?>
バセドウ病は、本来自分の体を守るはずの免疫(自己免疫)が自分自身の甲状腺を刺激して、甲状腺ホルモンを作り続ける病気です。別名、グレーブス病とも言います。抗TSH受容体抗体(TRAb)や甲状腺刺激抗体(TSAb)という自己抗体により甲状腺機能が亢進し、全身に様々な甲状腺ホルモン過剰による症状(甲状腺中毒症)を引き起こす、甲状腺機能亢進症の代表的な病気です。
<症状>

代謝をつかさどる甲状腺ホルモンや、交感神経系のカテコールアミンが過剰になるため、典型的には、甲状腺腫大、頻脈、眼球突出が代表的な症状です。その他、体重減少、指の震え、暑がり、汗かき、疲れやすい、軟便・下痢、筋力低下、イライラや落ち着きのなさが生じることもあります。女性では生理が止まることがあります。甲状腺は全体的に大きく腫れてきます。眼球突出に代表される眼の症状は「バセドウ眼症」とも呼ばれ、バセドウ病に特徴的な症状です。眼症は眼科受診を勧めております。
<原因は?>
自己抗体ができる原因ははっきり分かっておりませんが、遺伝的に自己免疫を起こしやすい体質をもっており、その遺伝的要因に加えて、出産や大きなストレス、感染症などの環境的要因が加わって発病してくると考えられています。
<治療は?>
第一選択は薬物療法になります。薬の重大な副作用が起こったり、2年程度薬物療法を行っても安定しない場合は、アイソトープ(放射性同位元素)療法や手術療法を検討します。
薬物療法の第一選択薬はメルカゾール(チアマゾール)です。副作用で使えない場合や妊娠初期(催奇形性が報告されています)はプロパジール(プロピルチオウラシル)を使用します。どちらも服用開始から2~3か月で副作用が出やすいため、その間は2週間毎の採血フォローが必要です。その後も甲状腺ホルモンが安定していれば、1か月毎程度の通院で薬を減らしていきます。薬が少なくなり、甲状腺ホルモンや自己抗体が正常化して3~6か月経過すれば、休薬(内服をやめる)を検討できます。ただし、休薬後も再燃する可能性があるため、定期検査が必要です。
<日常生活、食事などの注意>
一番大事なのは抗甲状腺薬を忘れずに内服することです。改善傾向でも3~4日飲み忘れると急に悪化することがあります。喫煙は、甲状腺ホルモンや眼症を悪化させるため、禁煙を勧めます。運動は、甲状腺ホルモンが高い間は疲れやすく心臓に負担がかかるため、激しい運動は控えて下さい。甲状腺機能が落ち着いてきたら体調に応じて軽い運動から始め、無理はしないで下さい。ヨウ素(ヨード)の摂取は、あまり神経質になる必要はありません。
<妊娠予定の女性の方へ>
甲状腺ホルモンが高い状態での妊娠は母体のリスクになり、胎児にも甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性があります。甲状腺ホルモンや 自己抗体が安定していれば妊娠・出産は可能であり、一般的には妊娠中は甲状腺機能亢進症が落ち着く場合が多いです。ただし、メルカゾール使用の場合は妊娠初期に使用しない方が無難であり、プロパジールへの変更などが必要なため、妊娠を計画した時点や妊娠が分かった時点で早めに当院にご相談ください。
↓上記の内容をpdfで1枚にまとめたものを下記からダウンロードもできます。
橋本病について
2023年8月23日:甲状腺
<橋本病とはどのような病気?>
橋本病は、本来自分の体を守るはずの免疫(自己免疫)が自分自身の甲状腺に反応して、甲状腺に慢性の炎症を起こす病気です。別名、慢性甲状腺炎とも言います。橋本病の自己抗体は、抗サイログロブリン抗体か抗TPO抗体であり、どちらか一方でも陽性であれば橋本病(疑い)の診断となります。

この慢性的な炎症によって、甲状腺組織が少しずつ破壊されていき、甲状腺ホルモンが作られにくくなって甲状腺機能低下症や甲状腺腫大が生じます。
<原因は?>
自己抗体ができる原因ははっきり分かっておりませんが、遺伝的に自己免疫を起こしやすい体質をもっており、その遺伝的要因に加えて、出産や大きなストレス、感染症などの環境的要因が加わって発病してくると考えられています。
<治療は?>
・甲状腺機能が低下している場合→甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS:レボチロキシン)を内服して機能を正常に保ちます。慢性的に低下している場合は一生涯内服を続けることも多いです。
・甲状腺機能正常の場合→甲状腺が腫れてくるだけでほとんどの場合は症状もなく、治療も必要ありません。ただ、将来的に甲状腺機能低下症になる可能性のある病気なので経過観察は必要です。
機能正常の橋本病の方を5年間観察すると、約30%の方で何らかの機能異常(ホルモン低下や上昇など)がみられますが、その多くは無痛性甲状腺炎など一過性の異常です。
一生のうちに治療が必要なまでに甲状腺機能が低下するのは10~30%程度と言われておりますが、いつなるかは分かっていません。
甲状腺機能低下症は、軽度であれば明らかな自覚症状は現れませんが、放置しておくと動脈硬化などの危険因子となるため、無症状でも6ヶ月~1年毎の甲状腺ホルモン採血をお勧めしています。
もちろん、明らかな甲状腺機能低下症が起こると、寒がり、便秘、体重増加、むくみなどの症状が現れるので、その際は早めに受診してください。
<食事、日常生活での注意>
ヨウ素(ヨード)を多く含む昆布などの海藻類を多く取ったり、イソジンうがいを連用したりすると甲状腺機能が低下する可能性がありますので、過剰摂取は気をつけてほしいですが、絶対に少しでも摂ってはいけないわけではなく、あまり神経質になる必要はありません。それ以外に日常生活での注意はありませんので、特に活動制限などは必要ありません。
<妊娠予定の女性の方へ>
妊娠中、軽度の甲状腺機能低下でも流産しやすくなったり、胎児の成長に影響する可能性があります。橋本病の妊婦は普段の甲状腺機能が正常でも、妊娠すると低下しやすいので、妊娠前後で甲状腺機能を確認する必要があります。できれば妊娠を計画した時点や妊娠が分かった時点で再度甲状腺機能は調べておいた方が良いので、当院にご相談ください。
↓上記の内容をpdfで1枚にまとめたものを下記からダウンロードもできます。